本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

人間とは恐怖心やマイナスの感情がないと生き甲斐まで消えてしまう生き物

《恐怖》は、生きる上で最も重要な感情である。恐怖心を抱くからこそ、人間は交通ルールを守るし、おいそれと犯罪に手を出すこともない。が、世の中には、一切の恐怖を感じない人間が存在する。

他人よりも度胸や肝っ玉があるといったレベルの話ではない。脳の障害により、恐怖という概念を持つことができないのだ。この病態、専門的には『クリーバービューシー症候群』と呼ぶ。主に頭部を強く打った患者が発症しやすく、恐怖心の欠如の他、触覚の鈍化や記憶障害などが起きるケースもある。
東京・幡ケ谷の安ァパートに住むK(26才)という男が診察室に現れた。
近頃、常にイライラしてまともに睡眠が取れないので、眠剤を処方して欲しいという。しかし私には、彼が単なる不眠症とは思えなかった。腕中に刻みこまれた切り傷と、青黒く変色した皮膚。パッと見は、自傷癖に苦しむウツ病患者そのものだ。

「これは気にしないでくださいよ。ちょっとストレス解消しただけですから」

男が自傷を始めたのは、ちょっど半年前のこと。
就職先が決まらずイラダチが募っていたところ、ふと町中で見かけた『献血募集』の看板に気を引かれた。バイトまでのヒマつぶしのつもりで立ち寄った献血は、しかし意外な効果を彼にもたらした。ゴムのチューブを通って自分の血液が抜けていくのを見た瞬間、それまでのイライラがウソのように消え去ったのだ。

以後、Kは極度の献血マニアになった。1回に限度量の400ミリリットルを採り、終わったら電車で別の採血場へ向かう。これを、道ばたで倒れるまで繰り返したという。

「限界まで血を抜いたことなんてありませんよね?ほんとスカッとするんですよ。頭の後ろから石が取れたみたいな感じで」

奇行は、さらにエスカレートしていく。献血だけでは物足りなくなった男は、温水に浸した自分の腕を、カッターで切り裂き始める。目の前が暗くなり床に倒れる瞬間、最高の気分になれたと、Kは興奮気味に語った。完全に自傷にハマった彼が次に目をつけたのは、なんと電流だった。コンセントの穴にシャープペンンルの芯を2本さしこみ、その上に手のひらを置くと、体中の筋肉を電気がかけ回り、終わった後は全身が《シャッキリ》するのだという。

「だかり、別にウツ病というワケじゃないんだと思いますね。あくまでストレス解消。自分じやまったく気にしてませんよ」

本人に治療の意思がない以上、医者の出番はない。私は軽度の眠剤を出しただけでカウンセリングを切り上げた。
10年後、再び不眠を訴えて私の元へ現れたKを見て驚いた。腕からはかつての傷痕が消え失せ、全身の皮膚が赤みをとり戻りしている。自傷癖は治ったのか?

「ええ。自分の体を傷つけるのに飽きまして」

あの巨大なストレスはどこへ消えたんだ?

「別の解消法を見つけたんですよ」「ほう。なんです?」「秘密です」

ニヤリと微笑みつつ男が立ち去ったのとほぼ同じころから、私の耳に不穏なウワサが舞い込むようになった。Kが住むアパートの近辺で、悪質なイタズラが急増し始めたというのだ。被害者の多くは近隣に住むホームレスで、死者こそ出ていないものの、多くが頭部に重度の裂傷を負っていた。道ばたに落ちていた財布を拾おうとかがんだ瞬間、向かいに建つマンションの屋上からレンガが降ってきた。気を失う寸前、頭上から「バーカ」と楽しそうに笑う声が聞こえてきた10被害者の1人はこう証言している。その後、事件は少しずつ過激さを増していった。
最初は暗がりで殴るだけの単純な手口だったのが、そのうち睡眠中のホームレスの眼球に接着剤を流し込むという残酷なものへ。中でもひどかったのは、一昨年の冬に起きた事件だ。その日の深夜1時、新宿ォペラシティ近辺の公園に住むホームレスのDさんは、散歩中、ふとブロック塀に『一』とだけ書かれた張り紙を見つけた。近づけば、矢印マークの先に、親指が通るほどのスキ間が1つ。興味半分、顔を寄せた、その瞬間だった。穴の奥からアイスピックが飛び出し、Dさんの右目をグサリ。とっさに体を後ろへ引いたため、幸いにも切っ先は脳の手前で止まったとりっ。たまらず片膝をつくと、壁の向こうから忍び笑うような声が聞こえてきたと、Dさんは後に語っている。

変わらず眠れないんですよ

三たび眠剤を求めてクリニックに姿を見せたKへ、世間話を装い聞いてみた。一連の悪質なイタズラ事件に何か心当たりはないか?

「ああ、流行ってるみたいですね。ヒドい話ですよ」

実は、この時期、私は密かにKにクリーバービューシー症候群の可能性を疑い始めていた。恐怖心を失った人間は、直後から極度のストレスに悩むことが多い。詳しい理由はわからないが、どうやら人間とは、マイナスの感情がないと、生き甲斐まで消えてしまう生き物らしい。生の実感を取り戻そうとして自傷行為にふけり、それが高じて他者へ危害を加え出すのは、まさにクリーバービューシーの症例である。

「ちょっとお尋ねしたいんですが、献血にハマる前に頭を打った経験はありませんか?」

「ああ、そういえば、バイト先のらせん階段から落ちましたね。すぐに意識が戻ったんで、医者には行ってませんけど」

状況は限りなくクロに近い。応急処置として、私はカルパマゼビン(強力な薬。クリーバービューシー症候群に効果があるとされる)を手渡し、事態の終息を祈った。
この後、ホームレス狩りはピタリと止んだ。現在Kはその筋では有名なデイトレーダーとして活躍していると聞く。